― よく使われている同意書の罠と、これから求められる説明義務対策 ―
近年、多くの動物病院で使用されている同意書は、かつての「一切異議申し立てをしません」といった包括免責型のものではなく、
• 「合併症や不可避の事故について説明を受けました」
• 「麻酔にリスクがあることを承知しました」
といった、いわば“リスク説明確認型”の書式が主流になっています。
一見、適切な形式に見えます。しかし――
それでもなお、獣医療トラブルは減っていません。
なぜでしょうか。
本稿では、現在広く使われている同意書に潜む「二つの罠」と、その具体的な対策について解説します。
多くの同意書には、「説明を受けました」とは書いてあります。
しかし、
“何について、どこまで説明したのか”は記載されていない
という重大な問題があります。
飼い主から
「そんな説明は聞いていない」
と言われた場合、裁判では原則として説明をした側(獣医師側)が立証責任を負います。
さらに注意すべきは紛争直後の対応です。
紛争が起きた直後というのは、どうしても冷静ではいられません。
「〇〇については説明しましたよね」と口にしたその一言が、録音されていた場合、そこに含まれる内容だけが切り取られて評価されることもあります。
本当はもっと説明していたのに
裁判においては「不十分な説明しかしていない」と主張、また認定されるリスクがあります。
本来、同意書は
裁判上必要とされる説明事項を網羅的に記載した文書であることが望ましいのです。
しかし、臨床現場でその都度詳細な書面を作成することは現実的ではありません。
これは比喩ではありません。
飼い主が本当に理解していないケースは少なくありません。
• 医療の専門用語が難しい
• 感情的に動揺している
• その場では理解した“つもり”になっている
そして人間は、一度聞いたことでも、後から「聞いていない」という記憶に置き換わる生き物です。
さらに、
• 来院した家族は聞いている
• 来院していない家族は聞いていない
という情報格差も生じます。
結果として、
「自分は聞いていない」と本気で信じているという状況が生まれ、紛争が深刻化します。
その背景にあるのは、同意書に“説明内容”が具体的に書かれていないという構造的問題です。
法律家が「同意書」という言葉を使い続けてきたこと自体が、本来の機能を見えづらくしてきたという反省もあります。
同意書の本質は、
飼い主との認識を一致させるための「説明書」です。
これが事前に手元にあれば、
• 来院していない家族も内容を確認できる
• 手術を受けるかどうか家族会議ができる
• 「この内容について説明を受けた」と客観的に確認できる
結果として、行き違いが大幅に減少します。
飼い主からよくある声があります。
「人間の医療ではあんなに丁寧に同意書を取るのに、なぜ動物だと簡易なのか」
「動物の命を軽んじているのではないか」
もちろん、
健康保険制度に守られていて人的物的資源がたくさんある人の医療と
そうではないすべて事業体が自分の資金だけで運営している自由診療の動物病院とで、
できる範囲が違うことはもちろん当然私は理解してますが、飼い主はその構造を考慮しません。
だからこそ、同意書はリスク回避のためではなく、顧客満足のためにあるという視点が重要です。
丁寧な説明文書は、
• 信頼を高め
• クレームを減らし
• 「頼れる獣医師」というブランドを築きます
当事務所では、獣医師の先生方と共同開発した
「Pet Sign」の活用を推奨しています。
特徴は以下の通りです。
• 手術ごとの説明事項を網羅した雛形
• 医院ごとにカスタマイズ可能
• 説明漏れを構造的に防止
• 「説明した/されていない」の紛争予防
• 飼い主の満足感向上
同意書を取ることにより、より飼い主の信用を得ることで、頼られる獣医さんになるためにも何もなくても同意書をしっかり取ること。
同意書を取ることはリスクを押し付けるということではありません。
説明を丁寧にするという心がけを持つことは重要なことです。
そしてその姿勢こそが、
• トラブル予防
• 信頼獲得
• 医院経営の安定
につながります。
同意書は、病院を守るためのものではありません。
病院と飼い主の“信頼”を守るためのものです。
当事務所では、
東京都獣医師会・横浜市獣医師会・千葉県獣医師会顧問も務めさせていただいております。
様々なケースのご相談をお受けしておりますので
もし、「今の同意書で本当に大丈夫だろうか?」など、お困りごとがございましたらぜひ一度ご相談ください。
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